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タモツの日記
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#302 贅沢な牢獄飯

十勝の田舎町で暮らしている。僕は家のごはん係だ。とはいえ、担当は、もっぱら夜ごはん、のみ。以前は、朝と昼の弁当を作っていた頃もあった。だが、今は仕事場が遠く、家にいる時間が少ないから、仕方ないのである。栄養のバランスは偏っているのかもしれない。ごはん+一品物。そんな日も少なくはない。3日間のトータルで考えている節もある。どうしたものか。今の僕にとっては、一汁三菜を摂ることと、それを作ることが、とても贅沢なことなのである。

それゆえに、休日はしっかりと料理を作りたいところだが、悲しいかな、僕は写真を撮ることも好きだった。行きたいところは山ほどある。ここは北海道。景色のいい十勝だ。行き交う車が少ないから、日帰り可能なエリアも広くなる。けれども、さすがに手の込んだ夜ごはんを作る時間は削ってくる。にもかかわらず、僕は迷わず、写真を優先してしまう。ごはん係は失格なのかもしれない。先日も、網走まで走ってきた。

美岬のヤチダモ。月並みの感想だが、大きかった。説明のいらない驚きが生まれる。写真は散々だった。久しぶりに被写体に負けた気がする。昔から、僕の心が揺さぶられるほど、写真の善し悪しは反比例していた。おそらく、冷静にシャッターを押せてないのだろう。「被写体に負けた」とはそういうことだ。釣られてなのか、その場で撮った他の写真もイマイチだった。菩提樹、槐、トリカブト。僕だけだと思うが、失敗写真からは、現場の熱狂だけを感じ取れた。

写真の失敗は、現像しなくても、うすうす感じていた。故に、ヤチダモ防風林も撮ろうと思っていたが、キャンセルして、網走監獄へ立ち寄ることにした。きっと、僕の好きな被写体があるはず。案の定、チケットを購入して足を踏み入れれば、そんな景色が広がっていた。でも、大丈夫。ここで被写体に負けることはないだろう。僕の過去の似たような経験が、昂る気持ちを抑えてくれる。人が多く、光量の低さとの戦いとなったが、お気に入りの一枚になるような写真は撮れたと思う。

ひとつだけ失敗をした。園内をまわっている最中に、お腹が減ってしまった。昼ごはんを食べずに回り出したからである。想定よりも時間が掛かってしまった節もある。そのため、後半は空腹との戦いも勃発。三つ巴の戦いとなった。低ISOで絞って撮りたい。けれども暗い。おまけに腹が減る。何度か戦線からの途中離脱を考えたが、根性で乗り切ることにした。きっと、その先にあるのは、より美味しく感じる昼ごはん。監獄食でも、美味しく感じることができるだろう。

「監獄食 B」は、1,200円。ホッケをメインにした一汁三菜。「監獄食は、味わいを楽しむための食事ではありません」。公式サイトでは、そう説明されていた。けれども、僕の理想の形のひとつがそこにはあった。なんて贅沢なんだろう。監獄食が目の前に現れるまで、それに気づくことはできなかった。

ホッケの開きは半身。すこしの大根おろしが添えられていた。絶妙に足りない量だが、これでいい。大根おろしは魚の塩味を丸くしてくれる。さっぱり感もだ。おまけに水分も足してくれるから、油ではないジューシーさも届けてくれる。もっと大根おろしが欲しいところだが、欲は果てしない。きっと、2倍の量にしても、欲は満たされず、逆に膨張するだろう。何よりも、その価値がインフレしてしまう。ならば、絶妙に足りない量で、その価値を噛みしめるのも乙ではなかろうか。いや、このホッケと大根おろしは、それを表現して僕に問いかけているのだろう。「足るを知れ」ということだ。監獄食 Bを侮れなかれ。想像以上に奥の深い料理なのである。

そこへ行くと、副菜も侮ってはいけないのかもしれない。フキの煮物は、その大きさから、「ラワンぶき」だと思う。足寄の名産品だ。松山千春が傘のように持っているポスターは何度も見ている。もうひとつ副菜である「長芋」も、十勝の名産品。どちらもうまい。塩味の強いホッケとみそ汁の間に入れたくなる。麦ごはんの存在も大きいだろう。トータルバランスが最高だ。サブ的な位置にいながら、影に隠れることなく、けれどもメインの一歩うしろを行く。そのためか、僕だけかもしれないが記憶に残っている。「帰りは十勝経由で帰ろうか」。そう思うお客さんも少なくはないのかもしれない。つまるところ、商業的な地域の相互付与を感じ取れる。ホッケは哲学的であったが、副菜は資本主義経済的。監獄食 Bを侮れなかれ。想像のはるか斜め上を行く料理なのである。

翌日、僕は一汁三菜を目指していた。調理時間は1時間程度を確保。サンマは煮魚にした。副菜は、食べられなかった監獄食 Aを参考に、切干し大根とはるさめサラダ。みそ汁は豆腐の入ったシンプルなもの。麦ごはんも用意したかったが、高価なのと冷凍庫の事情を考慮して、白米とした。

美味しい。記憶には残りにくいと思うが、いつもとは違うベクトル上の美味しいを感じられたと思う。作っていても楽しかった。いい休日を過ごしたと思う。贅沢な牢獄飯。なんとも皮肉な現実。僕らの思う「自由と幸せ」は、一体どのような形をしているのだろうか。監獄食を侮れなかれ。網走監獄で一番のコンテンツな気がした。

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