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#300 日本の夏にカルテスエッセン

十勝の田舎町で暮らしている。僕はとある企業の広報担当だ。訳あって、仕事場までは遠い。車で1時間。楽しい十勝ドライブが日課というわけだ。とはいえ、不都合もある。夜ごはんを作る時間が短い。一品料理が多くなった。お惣菜を買うことも多くなったと思う。

けれども、ここでも問題が発生している。飽きてきた。それは何も、すべてのお惣菜に対してではない。馴染みのスーパーのそれに対してだ。これは仕方ない。決して、お惣菜が不味いわけではない。考えてもみれば、十勝で暮らしはじめて10年になる。馴染みのスーパーも、本当の意味で馴染みとなった。そこのお惣菜に飽きても仕方ないと思う。僕は短期転勤族だった過去がある。その頃のお惣菜は、目新しさと驚きを兼ね備えた存在だった。「お惣菜祭り」。文字通り、その日はお祭りだった。だが、ここにきて僕の中のお惣菜の定義も変わった。飽きたのは味ではない。僕がお惣菜に求めていた、目新しさと驚きが消えただけだ。むしろ、これが普通の感覚なのかもしれない。

楽しく料理を続けるためにも、他の逃げ道が必要となった。できれば冷たいものがいい。暑い夏場でも、心が踊るのはそれだろう。揚げ物もいらない。それでいて、早く、安く、美味く、買いやすいもの。そんな都合のいいものが存在するのだろうか。諦め9割で検索したが、あっさりと見つかった。

カルテスエッセン。ドイツ料理らしい。「冷たい食事」を意味している。料理というか、食事文化だ。パンにバター、ハムやレタスなどを準備するだけ。切るだけで調理はしない。食べるときに、各々が組み合わせる。手間も時間もかからない。夕食後の時間を楽しむための料理というわけだ。

さっそく実践してみた。通い慣れたスーパーには、パン屋も入っている。けれども、別会計。荷物を持ちながらのセルフ購入はハードルが高そうだから、先に済ませた方がよさそうだ。おかげで、いつもとは違う順路でまわるスーパー。ハムとサラダチキン。野菜も調理の手を抜くためにベビーリーフにした。すこし高くついたが、お惣菜祭りと比べれば、まだ安い。それゆえに、ゴルゴンゾーラなんぞも買ってみた。

美味しかった。なにより、楽。ベビーリーフの水洗いが一番にめんどくさかった。たしかに、夜の時間が増えたと思う。ナイス・カルテスエッセン。けれども、どこか物足りなくも感じる。もうすこし手間をかければ、もっと美味しくなりそうだった。

それは土曜日のこと。見学者の対応のため出勤していた。けれども半日。午後は自由だった。とはいえ、その時間は少ない。加えて暑い。家で手の込んだ料理をするくらいが、ちょうどよさそうだった。

牛のモモブロックをフライパンで焼いていく。面だけ焼き固めて、あとはビニール袋に入れて湯煎した。およそ40分。主役のいなくなったフライパンに、赤ワイン、バルサミコ酢、バター、砂糖、醤油。煮詰めれば、ソースの完成だ。同時進行でパンも焼いた。強力粉100%、水60%、塩2%、酵母1%。いつもの配合だ。混ぜて、発酵させて、パンチは2回。形を整えて、オーブンの予熱時間が2次発酵。クープを入れて、オーブンに入れ、水気を手で飛ばし、250℃で20分。焼き上がりの待ち時間に、冷やしておいたモモブロックを切り分けた。

この日の夜も、カルテスエッセン。暑かった日中は、ローストビーフとフランスパンを焼いていた。ナイス・エレガント。これだけ手間をかけたなら、カルテスエッセンと呼べないが、細かいことは気にしない。夕食後の時間を前借しただけだ。もちろん、美味しかった。

日本の夏にカルテスエッセン。僕の中での恒例行事になりそうだ。

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