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タモツの日記
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#282 おならが止まらない

十勝の田舎町で暮らしている。僕はとある企業の広報担当だ。その業務には動画の編集作業も含まれている。あまり楽しくはないが、いい環境で行うそれは嫌ではない。4畳程の専用オフィス。すりガラスからの外光と、間接照明からの柔らかい内光で、単調なデスクワークも捗る。PCの性能もいい。処理でもたつくことはなく、後ろのYouTubeで懐メロを流していても影響はなかった。

もちろん、この仕事はひとりで進めている。近くに人はいない。多くの同僚がいる事務所との距離は約20km。物理的な距離が遠いと、精神的な距離も遠く感じる。とはいえ、仕事をサボったりはしない。サボれば、誰かの僕を監視する業務が増えるだけだからだ。そうなれば、このいい環境もすこし壊れる。仕事の効率も下がるかもしれない。会社にとってのデメリットが多すぎる。それは、僕にとっても損だろう。故に、サボらない。ただ、必要以上に頑張ることもしない。普通を心がけている。結局、それもいい環境の要因。つまるところ、僕の動きもそれを作り出している一因だと思う。がむしゃらに頑張らず、普通を心がけることも、立派な業務の一環というわけだ。

だが、この日は違った。同僚がやって来た。デスクワークのためだ。ここの環境の良さは噂になっている。それを知ってやって来たのだ。とはいえ、嫌ではない。緊張する相手ではないからだ。いつも通りの作業がそこにある。仮に、普段の僕がサボっていたら、この日は非日常になっていただろう。おそらく、疑われてはいないが、そのような疑惑があったとしても、この日の僕の振る舞いは、何かの担保になるだろう。そう考えれば、ありがたい日になったというわけだ。

作業は捗った。動画の編集も型が決まったから、ほぼほぼルーチンワーク。たまに雑談をしても、自分で決めた目標はクリアできそう。同僚のワークも順調そうだ。やはり、良い環境は良い仕事につながるのである。

だが、問題は午後に起こった。4畳程の専用オフィス。もちろん、トイレも完備されているが、デスクに近い。扉の上は、隙間も空いている。音は駄々洩れだ。とはいえ、男同士。そこは気にしない。同僚のその音も、仕事をしながらすべて聞いたが、特に思うことはない。小からの、大に繋がり、空砲も鳴る。そのことを雑談のネタにすることは「野暮」だろう。違う話題をふることぐらいが「粋」だと思う。

だが、僕のトイレはすこし違っていた。小からの、大に繋がり、空砲も鳴る。構成は変わらない。けれども、すこし緩かった。大に混ざる不協和音な水琴窟。その後の空砲も前倒し気味だ。オノマトペで表現する勇気はない。恥じらいを感じた僕は、桃に意識を集中して調節を試みる。難しい。きっと、その調節に失敗した音から、僕の恥じらいは感じとれてしまうだろう。そこには迷いと葛藤があった。

長かったトイレは終わった。僕は何事もなかったように作業へ戻る。同僚も何も言わない。「やっぱりPhotoshopって難しいっすね」。そんな話もふってくれる。「粋」だ。こんなにもやさしい「粋」を感じたのは何年ぶりだろうか。僕は何も言わずに、心の中で深く頭を下げていた。

やはり、この会社はいい。「野暮」と「粋」を感じられる。僕は江戸っ子ではないが、この考え方が好きだ。もしかしたら、僕の理解は間違っているかもしれないが、このルールを守らない「正しさと、優しさと、心強さ」には、いつも心惹かれている。それを発露できる人でありたいし、触れていたい。

なにより、音は漏れているが、臭いは漏れていなかった。それも功を奏していたと思う。今後、気をつけることは換気扇。トイレ掃除もそう。ひとりのときに、そこは徹底しておこうと思う。とはいえ、あくまでも知られることなくさりげなくだ。それが僕の「粋」になるのかもしれない。

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