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タモツの日記
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#252 対話貯金

十勝の田舎町で暮らしている。僕はとある企業の広報担当だ。基本的に仕事場では1人だが、他部署から応援の依頼があれば駆けつける。拒否権はあまりないが、行使しようとは思わない。そもそも、僕の仕事は少ないからだ。それに、たまに人と一緒にする仕事も楽しい。僕はひとりが好きだが、人間嫌いというわけではない。意識して興味関心を寄せていく必要があるが、その先で聞けるお話も割と好きなのである。これは若いときには無かった感覚なのかもしれない。

つまるところ、僕は聞き役に回ることの方が多い。自分のことを話したい気持ちはあるが、それを話したところで、会話は続かない。だったら、相手の話してくれていることに耳を傾けた方がいいわけだ。いや、傾けるべきは耳ではなく、頭なのであろう。僕は暗記が苦手だ。理解しないと頭に入ってこない。相手の話もそうだ。そのために、理屈っぽく相手の話を自分で積み上げてる節はある。それが楽しいのかもしれない。だからか、僕が聴きたいのは、相手の語る事実よりも、そこにたどり着いたであろう推論の方。「〇〇だったから美味しく感じたのかもしれないんだよね~」。その相関関係が正しいかどうかは別として、自分を推論している話に惹かれるというわけだ。

ただ、聞き役にまわっていると、不思議と自分のことを話す場面もまわってくる。相手の興味関心が僕に向いてくるのだ。正直、嬉しい。でも、油断してはだめだ。深く話そうとしても、会話は途切れてしまう。さらっと事実だけを述べるくらいが丁度いい。僕の経験がそうさせる。おかげで、今の会社では『謎な人』の称号を手に入れた。いろいろと情報が多いからだろう。入社して4ヶ月が経ったが、そういえば全社員を前にしての自己紹介はしていない。僕だけ日々の居場所が離れているからだ。それでも、今さらだがその機会を作ってもらえた。

「タモツです。よろしくお願いします」。自己紹介はスマートでいい。これでいくつもりだ。だが、最悪も想定しなければならない。「もっと長めでお願いします」。そんな要望がこれば、頭の中は真っ白になる。そうならないための準備も必要だ。簡潔に皆が知りたそうな言葉を並べればいいだろう。自己紹介文という名の呪文は本番の3日前につくり、頭の中で何回も唱えて練習しておいた。結果、シンプルな自己紹介で、一瞬は変な空気になったが、呪文の出番はなかった。せっかくなので、その呪文はここに書いておこうと思う。

タモツ 48歳 既婚 子供3人 上から男男女 出身は神奈川 住んだことのある場所は山梨 茨城 栃木 北海道岩見沢 東北仙台 山形 奈良 大阪は河内長野と箕面 そして十勝 趣味は写真と料理と車の運転 以前に乗ってたのはEKのシビックType-R 得意料理はフランスパン マイカメラは改造済みのPentax67Ⅱ 人に誇れることは「自転車で富士山5合目に登ったことがある」です よろしくお願いします

とはいえ、この呪文の半分くらいは、会社で知られてきている。自分語りのタイミングが、僕にも降りてきた結果だ。僕の知らないところで、話も一人歩きしているよう。そのためか、相談される場面も生まれてきた。恐縮である。

「自分の話を聞いてほしければ、他人の話を聞けばいい」。そんな話をどこかで聞いたことがあるが、本当にそうだと思った。この会社に来て、それを強く実感している。肌感覚だが、人の話を聞いて、理解して、そのことを相槌のように返し、相手の話が途切れることなく続く度に、何かを積み重ねている感覚を覚える。対話貯金。僕はそう感じた。なぜなら、僕の話を誰かが聞いてくれたとき、何かを払いたくなるからだ。おそらく、聞くことで貯めたものを、誰かと話すことで消費しているのであろう。

そうかんがえれば、世の中うまくできている。情報の流動性は上がり、澱みも少なくなるだろう。僕ら人の営みにとって、情報は血液みたいなものだと思っている。一番に大切なのは、その流れ。溜め込んだり、無に返してはダメだ。この文脈では、情報の善し悪しや真偽は関係ない。人が人として営んでいくには、情報の流れが欠かせないと思っている。

僕は今のスタンスを守っていこうと思う。バランスがいいからだ。自分語りの欲求が上がってきても我慢しようと思う。大丈夫、僕にはnoteがある。自分語りはここに書けばいい。いや、ここがあるから、自分語り欲求があまり上がってこないのだろう。note様々だ。これからも宜しくお願い致します。

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