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#250 またやらかした

十勝の田舎町に住んでいる。僕はとある企業の広報担当だ。今月に入ってさらに忙しくなっている。とはいえ、体は疲れていない。どちらかというと、任され仕事が増えたことによる忙しさだ。裁量権も増えたと思う。広報の仕事の優先順位も上がった。忙しくなったが、仕事は進めやすくなったから、楽になったと言ってもいいだろう。

僕は苦手なことが多い。けれども、誰よりも準備することで乗り越えてきた節がある。気が付けば、『上手い人』にはなれていないが、『出来る人』になっていた。例えばお客さんとの会話だ。おかげで配達の仕事も任されている。問い合わせの窓口にもなった。これもすべて準備の賜物だろう。

けれども、失敗もしている。想定外な場面に出くわすとアドリブは利かない。もちろん、多様なシチュエーションに合わせて会話の準備をしているが、それを越えてくるとパニくってしまう。

それは配達の出来事だ。請求書を渡して終わりのはずが、その場で現金払いとなった。一応、システムの準備はしており、やりとりのシミュレーションも行っていたが、それは頭の中だけで行っていた。実際のシミュレーションは怠っていたわけだ。

とにかく落ち着けと自分に言い聞かせる。最悪のシチュエーションはイメージできた。受取額とおつりの金額の間違いである。そこだけは確実にこなしたい。集中した。周りの声も遮断した。おかげで、そこを間違えることはなかったが、おかげで他の部分でミスを連発してしまった。

領収書を発行しなければならない。お客さんの名前はメモ程度にしか控えていなかった。ファミリーネームの記載は上手く書けたが、ファーストネームは『ひらがな』で書いてしまった。本当の表記は分からない。漢字な気もしたが、その気持ちは押し殺して書き済ましてしまった。

高額だったので収入印紙を貼らなくてはいけないが、控えの方に貼ってしまった。但し書きを書くのも忘れた。もう、ぼろぼろである。逃げ帰るようにその場を去ったから、いろいろと他の確認作業も疎かであった。

僕は大丈夫であろうか。20歳のときの入社時研修でもやらかしたが、今でもあの頃と基本的には変わっていないと思う。成長したように見えるのは、準備の精度を上げたからであって、それが機能しないとあの頃と同じ失敗を繰り返してしまう。救いなのは、あの頃の僕とキャラは変わっていないことだ。事務所に帰って、顛末を話したが、皆笑ってくれた。たしかに、些細と言えば些細なミスだったのだろう。

その後も、僕の仕事に変化はなかった。むしろ、人と話す仕事は増えたと思う。スケジュール表も、そんな予定で埋まって来た。間を縫って広報の仕事もしている。社内には文章を書ける人がいないから、こんな僕でも評価はうなぎ上りだ。

つまるところ、今月になって他人のことを考える時間は増えたと思う。それが忙しさの正体だろう。準備としてお客さんのことを考えるからだ。文章作成もそう。読み手はもちろんのこと、依頼者の気持ちも考える。イベント準備もそうだ。お客さんの行動を予測するために、様々なパターンを考える。もうずっと、他人の行動と思考のバリエーションを考えていた。

以前、僕は部下に「私たちに興味を持ってください」と言われたことがある。深刻な話ではない。僕がそっけない返事をしたときに言われた。「ごめん、無理」。僕がそう答えると笑いも起こった。そんな出来事が、違う場面で何回かあった。きっと、僕は他人への興味が薄いのであろう。だから、ぼっち耐性も高い。けれども、それは広報に向いていないことも意味すると思っている。

どうしたものか。今はまだ上を目指せているが、そのうち壁にぶち当たるだろう。そのときの原因のひとつに、かならずこれが入ってくるはずだ。とはいえ、直せない。他人に興味関心を寄せることは出来るが、無意識では無理であろう。そのときは必ず来る。それが今から怖いのだ。

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