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#248 十勝を知りたい気持ち

『白鳥!』。

唐突に上を見あげたお客さん。雲ひとつ無い青空を、白鳥が編隊を組んで飛んでいく。すると、天へと伸びる手にはスマホのレンズ。僕の仕事場には、仕事で訪れていたはずだが、いい十勝の思い出になったと言う。聞けば、都会疲れを感じていたらしい。地元民には、季節の変わり目くらいしか感じない白鳥の飛来。けれども、都会からやってきた人にとっては、非日常的で癒しな体験となったわけだ。

僕は、どっちにも付けずにいた。十勝に移住してきて、もうすぐ10年が経つ。外から見れば地元民に見えるかもしれないが、内から見れば、まだまだ外者の移住者であろう。おそらく、これはずっとこのままだ。時間は解決してくれないと思う。けれども、居心地は悪くない。僕と僕の周りの人達だけかもしれないが、移住者と地元民の区別は特に無く、些細なステータスの違いだけがそこにあった。その差は、話の種になるくらいだ。その意味では、ずっと移住者であることにアドバンテージすら感じている。つまるところ、何者でもない。空を飛ぶ白鳥に対する感想も、どっちにも付けずにいたというわけだ。

十勝のいいところは知っている。移住してから、その量も増えた。おそらく、これからも増えていくだろう。そのひとつに、白鳥の飛来もある。心は踊らないが、無関心ではいられない。キツネやエゾリスもそう。なんだかんだ言っても、不思議と自然に目で追ってしまうというわけだ。

空が広い。地も広い。ドライブが楽しい。それは運転がではない。観覧車と似ている。広い空に、狭い個室のプライベート空間。ふたりで入れば、お互いの距離感も変わる。使う言葉も変わるだろう。それが許されてる節もある。

一時停止の交差点。右から来る車を待つ時間は長くなったと思う。遠くまで見渡せるからだ。遠近感が狂う。近づいてくる1台のために、10秒以上も待ってしまうこともある。だが、そんな時間もいとおしい。十勝の時間はゆっくり進む。その所以のひとつに、交差点の待ち時間も含まれているのだろう。

一方で、夜のドライブは怖い。暗いからだ。漆黒の交差点もある。左右を確認したいが何も見えない。だが、何も見えないということは、少なくとも車は来ていないということだ。それに気付くまで、すこし時間が掛かった。おそらく、自転車や歩行者もいないだろう。月明かりがあれば別だが、無灯火では進めない。一応、いるかもしれない気持ちで運転はしているが、それくらいの漆黒というわけだ。

野生動物の飛び出しもある。よく聞く話だ。確率的に他人事とは思えない。シカ保険があるくらいだ。アスファルトに印字された『シカ注意』。出没ポイントは、おおよそ決まっている。獣道というやつがあるのだろう。それと道路のクロスポイントがそれだ。どうすれば注意できるのか。僕には分からない。とりあえず、スピードは落として回避シミュレーションは頭の中でしておく。おかげで、今のところは無事故というわけだ。

他にも十勝のいいところは知っている。僕の中でのことだが、豚丼よりラクレットの方が十勝っぽくて好きだ。半田ファームを推したいが、共慟学舎の方が気に入っている。糖蜜と同等に、ワインビネガーも料理に使いたい一品。柳月も好きだが、どちらかと言えば六花亭。あんバタサンよりも、バターサンドというわけだ。

モール泉は最高だが、ヨード泉はその上をいく。狩勝峠より日勝峠。新嵐山スカイパークより清水円山展望台。豊頃にあるハルニレの木もいいが、名も無い防風林に惹かれることの方が多い。南十勝もいいが、北十勝も中々の景色。ナイタイ高原牧場は何回でも行きたくなるが、各市町村にある共同牧場も負けず劣らずの風景を拝める。写真が趣味の僕にとっても最高というわけだ。

これが僕の知っている十勝のいいところの一部。これには、地元の方達が知らないことも含まれている。同時に、僕の知らない情報を、新参の方や外の方から教わることもある。つまるところ、知識の量で地元民の度合いを計ることは出来ないのだ。

漠然と、地元民になりたいと願う気持ちは、すくなからず僕の中にもある気がする。なぜだかはわからない。それが十勝のことを知りたいと願う根源にあるのかもしれない。計れないにもかかわらずだ。ただ、ずっと移住者でいたいと願う気持ちもある。その理由は上記で述べたものだと思う。その相反するふたつの気持ちを抱えたまま、時間だけが過ぎていく。故に、これからも白鳥の飛来を目で追いながら、すこしづつ十勝のいいところを知っていくのだろう。きっと、数年先の自分は、そんな暮らしを続けたことに後悔しないだろう。なぜだかそう思うのである。

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