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#243 フォークリフトはお友達

十勝の田舎町で暮らしている。僕はとある企業の広報担当だ。だが、それも任された業務のひとつ。他では古い機械のオペレーター的な役割も期待されている。そのため、入社時にフォークリフト免許を取得させてもらう約束をしていた。僕のひとり仕事の幅が広がるからだ。そして先日、その約束を済ましてきた。無事に免許をget。その顛末を、後続のためにも、ここに書き記しておこうと思う。

はじまりは、社長へ送った僕からの提案であった。けれども、講習会への参加を決めたのは会社である。つまるところ、指示に従っただけ。免許取得までのレールを敷いたわけだ。これは効果抜群。仕事だから怠けることも少なくて済んだ。これが自腹だったらどうだろう。たしかに、受講料は高額だ。5万円強の資金が必要となる。そのため、怠けることも少なくなると思うが、そもそも、受講まで辿りつくことが難しい。受講したとしても、責任が無いから受講料以上のストレスを感じれば、途中で辞めてしまうかもしれない。実際に、そんなことを口にしている人もいた。故に、自分のお金を使わず、それでいて適度に責任が発生する、会社の指示で取得するくらいが丁度いいと思われる。

とはいえ、合格率は100%に近い。おそらく、どのような形で受講しようが、結果は同じであろう。けれども、そこには落とし穴もある。確実に不合格者はいるようだ。僕が受けた場所でも、毎年、200人に1人は落ちるらしい。これは確率の問題ではない。誰にでもその可能性はあると思う。勤勉な者、器用な者、問わずだ。

フォークリフトの免許は国家資格だ。故に、取得するための講習内容は厳格に決められている。座学は8時間。実技は24時間。普通免許だけを保持している者は、この時間を消化することが義務付けられている。つまり、遅刻は厳禁。中抜けも然りだ。実技は自分の番が回ってくるまでに時間が掛かるから、その間は割と自由に過ごすことが出来るが、寝てしまって練習を欠いたり、敷地から出てしまうと一発アウトらしい。非常識なふる舞いだから、他人事に思えるが、あの環境を経験すると、たしかに在り得ると思えるから油断は禁物なのである。

講義の内容は難しくないが、まったく聞いていないと、その後にある筆記テストは難しいであろう。おそらく、何も知らない者がテストを受ければ、合格点である60点には到達できないと思う。講義を聞いていれば余裕で合格できるが、講義を聞いていなければ合格できないと思っておいた方がいい。ノートまでとる必要もないが、登壇者の話に耳を傾けることは必須だと思う。実際、僕の受けた講義でも、皆は真面目に話を聞いていた。

実技の練習は楽しかった。なぜか受講者に上手い人もいたが、その理由を解くことは野暮であろう。だからといって、事前に練習する必要もないと思う。もし、講習会の中での練習で、基礎的な運転を見に付けられなければ、それはやはり、その者の素質が足りないと思われる。決して、努力不足ではない。故に、そのときは潔く諦めた方がいい。とはいえ、合格率は高い。自転車の運転よりも簡単だ。遊園地のゴーカートに乗るくらいの気兼ねでも、充分におつりがくると思う。

むしろ、大変なのは「安全確認」と「試験手順」の手順の把握と実施であろう。けれども、練習を続けるうちに自然と覚える。頭ではなく体が覚えるといった感じだ。「安全確認」は指差し点呼で行うが、やりすぎは無いので、片っ端から確認することで乗り切る猛者もいた。「試験手順」も、動作の丸暗記ではなく、行う理由を理解するスタイルの方がいいだろう。スタートして、荷物を乗せ、コースを走り、荷物を下して、ゴールに戻る。その工程に細かく諸動作を肉付きさせていく感じだ。途中でトラブっても、この方法ならリカバリーも容易い。他の者の練習を見ながら、自分事のようにシミュレーションすれば、あっという間に「試験手順」も覚えられるだろう。

正直に言うと、試験コースは狭く感じた。気を抜くとバリケードに接触する。それだけで3点の減点だ。練習をはじめた当初は不安に襲われた。けれども、攻略法はある。正攻法だと、コースの中央を走る、曲がり角はイン側に30cmまで寄せる。早めに曲がりはじめる。さすれば、ハンドルを1周以上も回さなくなり、バリケードに接触することもなくなる。

ハック技術としては、そもそも、試験コース上に危険はない。故に、安全確認はかっこだけで充分だ。前も後ろも横も見なくていい。後輪で舵角していることも忘れて大丈夫だ。イン側の前輪と、次のコーナーのクリップポイントだけを見てればいい。そこを30cmまで攻めればいいだけだ。慣れてきたら、そのラインをなぞればいい。不思議とバリケードには接触しない。現場では危ないが、試験コース上では成立するだろう。

荷物の積み下ろしにも攻略法はある。難しいのは、荷物に対してピンポイントで平行にアプローチするハンドルさばきだ。理屈で覚えようとしても難しい。車の免許なら、ハンドルをいっぱいに切ってから少しづつ動くというハック技があったが、フォークリフトには流用できない。舵が切れすぎてしまい、かえって調整が難しいからだ。

自身を俯瞰で見ると上手くいく。広角視野で全体を見ながら、動きの中で狙ったラインに合わせていく。難しそうに聞こえるかもしれないが、体で覚えられるので、勝手に身に付くだろう。重要なポイントは広角視野だと思う。

もし、練習したいのならば普通車でもできるだろう。ゆるい左カーブで、右への遠心力を保ったまま、右車線に変更する。安全確認が難しいので、あまりおすすめはできないが、その感覚でフォークリフトを運転すると、狙ったラインに合わせやすいと思われる。

結局、フォークリフトの運転は難しい。けれども、試験は安全な運転を遂行できているかどうかを見られる。つまりは、上手い下手は見ていないということだ。いろいろと、失敗で減点はされるが、合格点は70点。30点までの減点なら合格できる。少々の接触や、運転ミスがあったとしても、それで不合格になることはないらしい。そうなると、一番の敵は「緊張」となるわけだ。

過去には、パニックになり、暴走して不合格になった者もいるらしい。運転が上手い人ほど、そうなりやすいと聞いた。たしかに、練習中でもパニックを起こしていた人もいた。僕も、途中で頭が真っ白になる瞬間が何回もあった。周りの人に聞いてみれば、同じことが起こったと共感の嵐となる。そのため、ここでも僕はひとつの策を撒いておいた。

「よろしくね」。運転席に座るまえ、僕は座席を2回ぽんぽんと軽くたたきながら心の中でつぶやくようにした。毎回である。「さっきはありがとう」。「ぶつけたらごめんね」。毎回、つぶやく内容は変えた。そして、走り出す前は、すこし笑顔にすることも。走り終えて降りるときも、「ありがとね」のつぶやきも忘れない。ちょっと気持ち悪いが、これでフォークリフトとの距離感はぐっと縮まる。すくなくとも敵にはならない。味方でいてくれるというわけだ。

おかげで、緊張しがちの僕でも、本試験にはリラックスした気持ちで挑むことが出来た。味方と一緒に挑んだからだ。途中で頭が真っ白になることも無かった。もちろん、練習を重ねてつくり上げた成功体験に由来するものでもあるとは思うが、この「フォークリフトはお友達作戦」も、すくなからず効果を発揮していたと思う。

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