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タモツの日記
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#242 シャツが逆だった

十勝の田舎町で暮らしている。僕はとある企業の広報担当だ。とはいえ、専任ではないので、他業務もあり、その種類も多岐に及ぶ。ここ数週間は講習会やらの出席が多く、先日も、視察研修のために十勝を離れていた。

1泊2日。距離はさほど遠くない。社用車が足となった。2台+1。僕の仕事場は本社から離れている。故に、そこからの参加のため、僕の足は僕の専用車となった。古いピックアップ。窓の開閉は手動で、エアコンは無いから、三角窓というものが付いている。2人乗りで、切り替え式のパートタイム4WD。もちろん、トランスミッションもマニュアルだ。現役で走る昭和の遺物と言っていいだろう。

いつもは、仕事場と本社の往復にしか使わない社用車。ところが、この日は長距離ドライブ。さほど気温も暑くはない。僕の心が躍らないわけはないのである。

それでは、移動が終われば、あとはつまらない視察になるかといえば、それはNO。屋外視察は、僕の好きな被写体の宝庫だった。仕事としても撮らなければならないが、僕の他にも写真好きはふたりもいる。撮り逃しても大丈夫であろう。ある程度なら、自分の趣味に走った写真を追えるのである。

ひとつだけ、心配ごとはあった。泊まりだから、夕食は飲み会になる。入社してはじめてのそれだ。基本的に無口な僕にとっては、この視察研修で一番に高いハードルであろう。故に、シミュレーションはしっかりと行っていた。

僕もいい歳だ。物静かな人として認識もしてもらっている。変な頑張りはしない方がいい。耐えるべきは、沈黙時の焦りだ。僕がそれを破る必要はないのである。きっと、ごはんは美味しい。そこに集中しておけばいい。あとは話かけてくれる人の興味関心に気持ちを寄せていくだけだ。とにかく自然体でいることを心がける。

そんなことを思っていたが、蓋を開けてみれば、普通に楽しかった。同僚との距離もすこしは縮まったと思っている。いろいろと会社の中のことも知ることが出来た。お酒の飲み方も完璧だったと思う。限界までは程遠くも、しっかりと酔えていた。就寝時間も、早くなくて遅くもなく。ちゃんとシャワーも浴びてから就寝。朝もばたばたすることなく準備完了。二日酔いも無い。視察研修の2日目も、万全で挑むことが出来た。

だが、そう上手く事が進むわけはない。異変は昼食後に訪れた。最後の視察先。ここも被写体が多い。説明を聞きながら、写真を撮りまくっていた。気温も上がっていたので、上着は車に置いてきた。気が付けば集団から少し遅れていた。追いつくために、すこし小走り。そのときに気が付いた。着ていたシャツの裏表が逆だったのである。

おそらく朝からだ。余裕すぎて確認を怠った結果だ。けれども大丈夫。ずっと上着を羽織っていた。きっと、バレてはいない。この最後の視察が終わって車に乗り込めば、そこで着替えられる。いや、いますぐに着替えるべきか。集団から少し離れているから可能ではある。けれども、その勇気は生まれなかった。このまま、シャツが逆なことを気付いていないフリでやり過ごすことにした。

微妙に集団からは距離をとることにした。おそらくだが、シャツのデザイン的に、遠目では分からないからだ。隠したいポイントは3つ。胸前のボタンと首裏のネームタグ、それに右脇腹にある洗濯タグだ。これはもう、距離を置いて、後ろでやり過ごすしかなかった。

もうひとつ準備しておかなければならにことがある。気付いた誰かに指摘されたときの返答だ。答えによってはめんどくさいことになる。仮に「あ、ほんとだ、ありがと」と返せば、その場で着替える羽目になる。もしくは路頭に迷う。きっと、現場は変な空気になるだろう。そう考えれば、「しってる、はずかし、でも、まあ、いっか」がベターであろう。むしろ、このやりとりを誰かと行えば、いちばん幸せにもなれると思った。

運悪く、現場は今回の視察研修で一番の撮影スポットであった。写真を撮りたいが、どこかで逆なシャツに邪魔をされている。それでも撮った。仕事で使えそうなベストショットと、趣味に走ったベストショット。それぞれ一枚ずつ。自分を誉めてあげたいのである。

無事に視察研修は終わった。結局、誰からも逆なシャツはつっこまれなかった。おそらく、気付いていた人はいるであろう。でも、あえてスルーしてくれたと思っている。皆は大人だったというわけだ。そう考えると、申し訳なく思う。気をつかわせて、ごめんなさい。僕は車の中で、ささっと着替えた。その後も、何もなかったように振る舞った。それが僕にできる唯一のお礼である。結局、皆は優しかった。いい会社に入れたと心から思うのである。

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