





十勝の田舎町で暮らしている。僕はとある企業の広報担当だ。仕事場は家から遠い。故に、通勤時間は長いが、楽しいドライブと割り切れている。とはいえ、残業が無くても、家に帰ってくる時間は、以前より遅くなった。夜ごはんを作る時間は削られている。入社して2ヶ月となるが、不満と言えばこれくらいのことだろう。
それでも、帰宅時に家から遠くのスーパーにも寄れるから、毎日のごはん作りが楽しくなった面もある。だが、この夏の時期、もっと楽しいことがある。それは、野菜のおすそ分けがあることだ。ここは十勝。その規模も大きい。こんなにもらってもいいのかと、心配になるくらい頂けるときもある。本当にありがたい。
先日は、ミニトマトとバジルの葉を頂いた。同じくらいのタイミングでニンニクも頂いている。これはもう、パスタを作れと言うことなのだろう。僕はすぐに実行した。みじん切りにしたニンニクを、たっぷりのオリーブオイルで炒めていく。火加減は弱火だ。ここを焦ってはいけない。
ニンニクのいい香りがしてきたら、半分にカットしたミニトマトを加えて、さらに炒めていった。同時にへらでミニトマトをつぶしていく。時間が経てば、とろみの付いたソースになった。そこへ細かくカットしたバジルの葉を投入。赤ワイン、バルサミコ酢、塩も加えた。顆粒の昆布だしも入れた。煮詰めて塩茹でしたパスタと合わせれば、十勝スペシャルなポモドーロの完成だ。
美味い。シンプルな料理だから、素材の良さがダイレクトに伝わってくる。惜しみなく使ったから、さらなら濃さと深みを堪能できた。しいて不満を漏らせば、それは上からかけたチーズが十勝産ではなく、外国産だったことだろう。
パルミジャーノ・レッジャーノ。いつの頃からか、僕の家では常備されるようになった。当初は、値段が高くて見向きもしていなかったが、試しに使ってみれば、お値段以上の香りと味にはまってしまったというわけだ。価格も使用回数で割れば、そんなに高くないことにも気付いた。よっぽど他の食材の方が高かったのである。
できれば十勝産のチーズで仕上げたい。けれども、十勝にパルミジャーノ・レッジャーノは無かった。それもそのはず、イタリアの一部の地域で作られたチーズが、その名を冠できるらしい。同じものを十勝で作ったとしても、それはパルミジャーノ・レッジャーノではないのだ。
チーズの王様と言われているパルミジャーノ・レッジャーノ。僕はスーパーで手に入れたが、それも本物かどうかは分からない。模倣品も多いそうだ。安価な粉チーズであるパルメザンも、英語表記のパルミジャーノ・レッジャーノではあるが、模倣品である場合がほとんどだそうだ。そうならば、もしかしたら僕は本物のパルミジャーノ・レッジャーノを知らない可能性もある。
すこし、もやもや感は残るが、それでも僕の買ってきたパルミジャーノ・レッジャーノは確かに美味かった。これからも食べ続けるだろう。けれども、十勝産の美味しいハード系のチーズに出会えれば、もしかしたらパルミジャーノ・レッジャーノとは”さよなら”するかもしれない。
十勝のチーズは美味しい。この地の名物はいろいろあるけれど、別格でチーズが美味しいと僕は思っている。豚丼よりも、ジャガイモよりも、アスパラよりも、圧倒的にチーズなのだ。ただ、それはセミハード系のとけるチーズを食べてそう思っていた。パルミジャーノ・レッジャーノのようなハード系のチーズは試してこなかったのである。
楽しみが増えた。もしかしたら、十勝にもパルミジャーノ・レッジャーノのようなチーズがあるかもしれない。もしも出会えれば、僕の作る十勝スペシャルなポモドーロも完全体になれるだろう。めぼしいチーズ工房はすでに頭の中でリストアップされている。時間のある週末にでもドライブがてら行ってみるつもり。この秋も忙しくなりそうだ。