





十勝の田舎町で暮らしている。僕はフォトグラファーだ。とはいえ、最近は撮れていない。プロでもないから、この肩書きはフェイクと言えてしまうだろう。そう、実際は写真が好きなだけだ。
それでも被写体の制作は怠ってはいない。庭には花壇を作った。すでにバジルの苗を植えてある。元々あった花も開花した。スマホでは毎日撮っている。遠いところで暮らしている母へ送るためだ。いくつかはSNSにも上げた。おかげで、最近はお花アカウントの様相を呈している。SNSも、頭の中も、お花畑というわけだ。
ガレージの改造も着々と進んでいる。薪ストーブのレイアウトも決まった。知り合いの製材所から端材を大量にもらったので、薪の心配もない。なんなら加工して、ミニチュアサイズの薪も作ってみた。おもしろい。まだまだクオリティは低いが、続けていれば上手くなるだろう。楽しみが増えた。テーブルソーあたりが欲しいのである。
ガレージの一番奥には、大型の冷凍庫を置くことにした。仕事では冷蔵庫として活用していたが、モードを切り替えて家庭用として使おうと思う。
さっそく、肉類を買いだめして冷凍してみた。当たり前だがカチコチだ。ちゃんと冷凍されている。活用方法はまだ手探りだが、その過程も楽しもうと思う。
冷凍庫の内部はカゴで仕切られているが、その一部にはフィルムを入れることにした。 PROVIA 100F。ブローニー版のポジフィルムだ。購入からは数年経っている。消費期限はとっくに過去。それでも使う。いい機会だ。1shotの価格は気にせず気軽に使いたい。
ただ、心配なことがある。露出の決め方は忘れてしまった。もとい、デジタルに慣れすぎて、プレビューを見れないと不安になると思われる。しかもポジだ。リバーサルだ。露出がシビアだったことは覚えている。そのためにカメラはメーカーカスタムも施した。果たして今の僕に扱えるのであろうか。心配しかない。今のうちに失敗談でも思い出しておこうと思う。
実は海外旅行に行ったことがある。それは数十年前のこと。飛行機で6時間ほどの距離にある南の島だ。時間とお金の掛かった旅行だった。準備も大変だったと記憶している。勤めていた会社も協力してくれた。僕の代わりの者を用意するために、人事異動を行ってくれたくらいにだ。
故に失敗は許されない旅行だった。楽しまないといけない。スケジュールはギチギチだ。合間を縫って写真を撮った。青空がいい。ポジとの相性は抜群だ。海も美しい。さざ波のディテールも、リバーサルなら上手い具合に表現できる。サンセットが生みだすグラデーションを捉えることは難しいが、それがかえってよかったりもする。現場ではやりきったと思えた。
現像してみると、クオリティは散々だった。まずは景色に負けている。テンションが上がっていたのであろう。思慮不足と思える写真が多数を占めていた。構図が雑。それはまだいい。問題なのは青空の写真だ。どれも暗い。プラス補正を忘れていたよう。初歩ともいえる凡ミス。かなりの枚数を撮ったが、お気に入りの一枚は無かったのである。
でも、おかげでそれを境に意識は変わった。テスト的な撮影が増えたと思う。測光の方法も変わった。スポットで画角の内をくまなく測るようになった。割と勘や経験に頼ることも多かったが、回数を重ねるうちに記憶しているデータを頼るようになったと思う。そう、外部には出力していない。故に忘れてしまったというわけだ。
数々の失敗を思い出していたら、その対策も思い出した。僕は、ことあるごとに動物園に通っていた。理由は分からないが、いろいろと抱えていた課題が解決していった記憶がある。いい気分転換にもなるのであろう。閃くことも多かったと思う。
僕は動物園に行きたくなった。今の自分が抱えている課題が何なのか? それすらも分からないが、行けば何かを知ることができると思うからだ。フィルムはリバーサル。レンズはどうする? 標準の105mmにしておこう。動物園ならどこでもいい。近場のあそこにしよう。蝦夷梅雨の涼しく曇天の日を狙うつもりだ。すこしめんどくさい気持ちはあるが、それ以上に、今の僕が撮ったリバーサル写真をみたいのである。