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#207 孤独のガレージ

十勝の田舎町で暮らしている。僕はきのこ農家だ。とはいえ、収穫量は微々たるものになった。入金があるので離農の手続きは先だが、農家を名乗れる立場ではないであろう。

次の肩書は何になるのか。プータローは嫌だ。でも、立派なものも要らない。選択肢はある。人脈の乏しい僕だが、以前にお世話になった人からは、声を掛けてもらっている。食いっぱぐれることはなさそうだ。本当にありがたい。

そう思う一方で、理想も追いかけてみた。フリーランスには憧れている。在宅勤務にも。故にクラウドソーシングに登録してみたが、結果から言うと散々だった。

やはり最初の一歩に躊躇が生まれる。なんとか踏み出してみれば詐欺案件に突っ込んでしまい、公募に応募してみれば入賞6件が同一人物でおそらく出来レース。絶望しそうになるも他の公募に挑戦してみたら、今度はレベルが高く絶望。稼ぐ前に気持ちが散々となったわけだ。

結局、普通にサラリーで働くことにした。とはいえ、肩書はまだ決まっていない。とりあえず、働かしてもらっている。肉体を酷使するが楽しい。チームで動くことに不安を持っていたが、大丈夫であったと思う。独りで動いていた時間は長かったが、ちゃんと社会復帰を果たせてよかった。おそらくだが。そう信じている。

余裕が生まれた。頭の中の隙間は増えた。それを埋めるように、休みの日は動画やgameに明け暮れてみた。時間の進み方が早い。楽しいが、2日目には飽きてしまった。頭の中の隙間も埋められていない。どうしたものか。

僕はガレージの片付けをはじめた。ずっと後回しにしていたタスクだ。どうにも腰が上がらなかったが、なぜかここに来てやる気が出た。取り掛かれば2時間ほどで終了。何もない空間が広がったわけだ。

ここを居心地のいい場所にしたい。離農して失うものは多いが、旧直売所の隠れ家的な空間もそのひとつ。それを家のガレージで再現しようと思ったわけだ。

旧直売所にあった大きな机を搬入した。高光量の5連LEDライトも移設した。これで簡易的な写真スタジオを維持できる。小さな薪ストーブも移した。冬が楽しみだ。炎と戯れることができるだろう。乾燥室にもなる。停電時の避難先としても活躍しそうだ。

ガレージ横の庭では畑をしようと思う。春には花が満開になる。その脇にハーブ類を植えるつもりだ。収穫できたら乾燥させよう。機械はある。ガレージに置こう。料理も楽しくなるだろう。

心が躍ってきた。写真も撮れそうだからだ。撮りたいときに撮れる環境は嬉しい。これも離農して失うもののひとつであったが、再構築できそうだ。

結局、楽しい居場所があれば僕は嬉しいようだ。すこし前に『ミニマリスト』的なものが世間に支持されていたが、僕は魅力的に思えなかった。物欲や所有欲を過度に捨て去ることはバランスが悪い。もちろん、欲に支配されてしまっては不幸なだけだが、「欲に逆らいたい」という欲もまた人にとっては厄介だと思う。

おそらく、僕にミニマリズムは合っていない。居場所を構築する"もの"も必要であろう。本能もとい、煩悩とは適度に付き合うくらいが丁度いい。否定せずに大切にしたい。僕にとっては居心地のいいガレージを所有することがそれだ。田舎でよかった。そうでなければ持つことは難しかったであろう。

僕はぼっち耐性が強い。だからであろう。仮に寂しがり屋であったら、ミニマリストになっていたかもしれない。つまりは大切にしたいものの優先順位なのだ。僕は孤独のガレージを善としている。農家は続けられなかったが、田舎に移り住んで本当に良かったと思っている。

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