





医療系の研究施設で働いている。僕は短期転勤族だ。今の事業所は12ヶ所目。すこし前に配属された。任務は新規施設の立ち上げ。故にデスクワークが主となっている。各種書類の作成と、必要物品の洗い出しと発注など。頭を使う仕事がメインだ。
とはいえ立ち上げ期間は長い。正直に言うと暇である。やれることをやって、あとは待ち時間だ。だが、待っていることは多い。3ヶ月後には忙しくなることが確実。いまはボーナスタイムと言ってもよいだろう。
週はじめの朝は全体のミーティングがある。僕ら2人は委託業者だが、そこへの出席も求められていた。だが、MCが何を言っているかは分からなかった。すべてが英語なのである。
そのミーティングでは自己紹介も求められた。『日本語で失礼します』。この枕詞を添えて、僕らの自己紹介ははじまる。僕ら以外にも、この言葉を添える人は少なからずいた。だが少数派だ。研究員への申し送りはすべてが英語だった。
PL主催のミーティングにも参加した。ここでは僕も報告の義務がある。ここは日本語でよかった。最初は緊張したが、2度目以降は慣れたもの。様々な会議に出席はしてきたが、オンラインミーティングははじめてであったのだ。
PLは忙しい人だ。世界中を飛び回っているらしい。ミーティングもオンラインになることが多い。こっちのカメラは1つだ。全体が見渡せるようになっている。マイクも固定式が1つ。僕はすこし大きめの声で報告した。マイクに向かってだ。PLの顔はモニターで確認できるが、マイクとは違う方向にある。どこを向けばいいのだろう。オンラインのそれは難しかったのである。
直属の上長はULだった。施設の責任者でもある。なかなかの無理難題も尋ねてくる。けれども大丈夫だ。僕の経歴は11ヶ所。過去に経験した課題以上のことは尋ねられなかった。
施設の立上げは順調に進んだ。ULと密に相談。問題を探して、解決策を探る。必要な物品を発注したり、業者に問い合わせをしたり。とにかくULは仕事がはやかった。僕もそこに食らいついていく。2手3手先の読み合い。そんなやりとりが楽しかった。
僕らの居室は狭い。3人も入れば圧迫感も感じる。けれども居心地はいい。研究員さんたちの居室は階が違うからだ。静けさすら感じる。ULとの打ち合わせも捗る。その後の雑談タイムも長くなった。いつしか研究員の休憩所にもなっていた。
たまに会社の担当営業も来る。前の事業所でも担当営業だった英語兄さんだ。僕の3ヶ所目の事業所であった『陸の孤島』の後釜の人でもある。すこし頭が悪い。理解に時間がかかる。熱量は高いのでいつも空回り気味の人だ。それをULは見抜いていたのだろう。あきらかに対応がしょっぱい。ここでも英語兄さんのフォローが、僕の仕事のひとつになりそうだった。
ここでの仕事は楽しい。やはり、立ち上げはやりがいがある。けれども、どうしても過去の事業所と比べてしまう。遣り甲斐は9ヶ所目の『最高峰』で味わったものには勝てない。暮らしの楽さも3ヶ所目の『陸の孤島』の方が上だ。業務における責任の重さも、7ヶ所目の北海道の方があったと思う。
あまり過去と今を比べない方がいい。そう分かっていても比べてしまう。仕事って何だろう。はたらくってなんだろう。そんな問いを強く感じるのである。