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#191 小惑星に負けない

1%以上。とある小惑星が地球に衝突する確率だ。その日は2032年の12月22日。名前は『2024YR4』。これがアルマゲドン風の名前だったら、もっと恐怖を感じていただろう。無機質なものでよかった。

それにしても、こんなにも1%を高確率に思うことはないだろう。僕だけかもしれないが、くじ引きなら的中率が5%でも期待はできない。降水確率は10%でも傘の心配はしない。にもかかわらず、1%の確率で小惑星が衝突すると言われれば、心がざわついてしょうがない。それだけ恐怖を感じているのであろう。

さいわい、僕の住む町は予想落下地点からは外れている。自分勝手だが、たしかにそれを知って安堵する僕がいた。予想落下地点に住む方々には申しわけない。けれども、心から安心はしていない。予想が変わる可能性があるからだ。対岸の火事も明日は我が身。僕も予想落下地点に住んでいると仮定して、いろいろと考えたいのである。

『2024YR4』の直径は100m以下。仮に衝突しても地球全体に壊滅的な被害は広がらない。寒冷化も起こらないとされている。けれども、田舎町のひとつが消え去るくらいの威力はあるらしい。爆発が起こるので、それ以上の範囲にも被害は及ぶだろう。

だからといって、小惑星は爆弾ではない。ただの大きな石だ。それが地球と衝突する。とはいえ、クルマ同士の衝突とはわけが違う。速度が桁違いなのである。

『2024YR4』の予想速度は約17km/sとされている。時速で表せば6万1,200キロ。マッハ51にも及ぶ。想像を絶するスピードだ。その速度域では『空気』にも衝突する。衝突された空気は脇にそれる暇も与えられず、次々と衝突した空気が前方に溜まっていく。溜まった空気は圧縮されて高熱になるわけだ。決して、大気の摩擦熱で熱くなるわけではないのである。

圧縮されるのは空気だけではない。地表に到達すれば地面の圧縮もはじまるだろう。熱量も桁違いに増える。そして小惑星の落下が終わると圧縮も終わる。すると圧縮されたものが元にもどりはじめる。膨張がはじまるわけだ。圧縮の力が強かった分だけ、膨張の力も強い。軽く音速は超えるだろう。それは爆発ではなく爆轟。衝撃波も生まれるくらいの膨張だ。田舎町のひとつくらいは簡単に吹き飛ばすだろう。

おそらく、そこで暮らしていたら助からないと思われる。地下シェルターでも安心はできない。やはり、助かりたければ避難一択。もし、それができなければ小惑星と運命を共にするしかないのである。

とはいえ、そこが大都市ならば、国や世界がなんとかするかもしれない。いや、なんとかしてほしい。他力本願だが祈ってしまう。核融合爆弾を撃ってもだめなのであろうか。やはり、映画アルマゲドンのように穴を掘る必要があるのだろうか。真相はわからない。だが、頑張ってほしい。その影響で税金が上がるなら、前向きに我慢したいと思う。

けれども、もっと大きな小惑星ならどうするだろう。直径が数百kmのものなら、人類はおろか生命の絶滅の危険すらあるらしい。そのような災害が数ヶ月後に起こると分かったとき、僕はどうすればいいのだろうか。

きっと、国家や法治は崩壊するだろう。未来が無いということは、そういうことだと思う。小惑星が衝突する前に亡くなる人も多いのではなかろうか。そこを生き延びたとしても、確実な滅亡が待っている。痛いのは嫌だ。願わくば、それを避けて滅びたい。そのための処方を開放してほしいものだ。さすれば、あとは気持ちの問題となるだろう。

できれば爪痕を残したい。生命の存続も望んでしまう。誰でもいいから、この星から脱出してほしい。人でなくてもいい。なんなら生きていなくてもいい。屠体や枯葉を詰め込んだロケットを、深淵の宇宙に向かって打ち上げるだけでも気持ちは救われる気がする。どうだろう。

最近、生命の起源は宇宙からの飛来説が有力となる発見があった。納得できた。さすがに狭い地球で生命が発生するには、偶然と奇跡が必要に思えていたからだ。そこへいくと、宇宙のどこかで発生したのなら、それは必然であり当然の出来事だろう。限りなくゼロに近い確率も、限りなく無限に近い機会があれば、100%起こりえる現象になるからだ。

ただ、なぜ生命の欠片が宇宙へ飛び出したのかという疑問は残る。おそらく、その星が砕け散るときに飛散したのであろう。けれども、意図的に宇宙へ放出させていた気もする。きのこが胞子を飛ばすように、文明が有機物を乗せたロケットを飛ばしているのかもしれない。

そう考えれば、生命が宇宙を目指すところまではプログラム通りなのであろう。そうすることで滅亡前に僕らの気持ちが救われる理由も分かる。最後まで生命という自律分散型システムの一個体として役割を全うするわけだ。

それはちょっと癪に障る。それに対しては中指も立てたい。ささやかながらも抵抗したくなる。おそらく僕は最後まで写真を撮り続けるかもしれない。

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