





十勝の田舎町で暮らしている。僕はきのこ農家だ。収穫日は毎日。故に真冬も仕事はある。雪が積もってもだ。十勝は北海道の中だと雪の少ない地域。それでも降る。毎年、少なくてもひざ上までは積もる。とはいえ、今シーズンは少ない。記録的に少ない。困っている人も多くいるらしい。
僕は喜んでいた。仕事が減ったからだ。年が明けても除雪機の出番はない。おまけに暖かい。マイナス2桁に届かない日が続いた。薪を焚べる回数も若干すくない。それでも、きのこの成長は上々だった。
だが、そんな日は続かない。週間天気予報に暗い雪ダルマが現れた。すこし油断をしていた。たしかに今年は暖かい。おそらく季節の変わり目でドカッと降るだろう。そう思ってはいたが、それはまだ先のこととも思っていた。冬の気圧配置が崩れるには早すぎる。案の定、予想気圧配置はすこし特殊だった。
大陸から強い寒気が降りてくる。相当に強そうだった。鹿児島や伊豆大島でも雪が降りそうなくらいに強く見えた。それに押されるような形で、日本海から低気圧が十勝沖にやってくるらしい。このコースは珍しくないが、押し出される形は珍しくも思えた。いつもなら稚内経由でオホーツク海に抜ける低気圧かもしれない。特殊な分だけ強く発達する可能性がある。おまけに時期にしては十勝沖の海水温は高めらしい。記録的な大雪になる条件はそろっていた。
つまり、『大陸の高気圧』と『太平洋の低気圧』が十勝で戦いを繰り広げるわけだ。迷惑な話である。低気圧は高気圧に突き飛ばされて今がある。リベンジ戦だ。大丈夫、今度は太平洋の海水温というサポートを受けている。いつもなら日高山脈というサンドバッグを打って終わりだが、今回は大陸の高気圧と戦う実戦だ。試合会場も東方へずれるだろう。
降雪予報時間は深夜。僕は栽培ハウスにある薪ストーブの火を守った。薪は多めにハウス内へ搬入済。深夜でも薪を焚べ続ける。熱でハウスの上の雪を落とすためだ。落とした雪はハウスの脇に溜まるが、そこも除雪してゼロにしておいた。準備は万全。あとは気圧同士の戦いを見守るだけであった。
結果は高気圧の勝利。それははじめから分かっていたことだ。だが、予想よりも苦戦したと思う。そのためか、試合会場となった帯広では12時間の降雪量が120cmを超えたらしい。国内観測史上最大だそうだ。ビニールハウス倒壊の被害も出ているそう。大変なことになった。
ここだけの話、僕は高気圧を応援していた。札幌や帯広に住む方々には申し訳ない。だが、おかげで僕の暮らす山沿いの町は、高気圧に守られて50cm程の積雪で難を逃れた。ハウスの倒壊も防げたのである。
もしも、すこしだけ高気圧が弱かったら。もしも、すこしだけ低気圧が強かったら。おそらく、僕の暮らす町は甚大な被害に見舞われていただろう。試合会場になるからだ。サンドバックとなる日高山脈がある分だけ積雪量も多くなっていたかもしれない。120cmでは済まなかったと思う。
運が良かった。これはもうすこし農家を頑張れと言うことなのか。なんにせよ、まだまだ続けられそうでよかった。