





十勝の田舎町で暮らしている。僕はきのこ農家だ。就農前は地域おこし協力地として研修を受けている。おかげで栽培は上手くいっている方だ。聞いた話だが、上手くいっていない農家もあるそうだ。
僕の原木は3年の間に10回ほどフィーバーする。儲けを考えなければ15回以上は望めるだろう。だがしかし、上手くいっていない農家の原木は、4~5回ほどのフィーバーで打ち止めとなるとか。やはり研修は大事なのである。
僕は学生の頃に微生物を学んだ。就職してもバイオセーフティーなクリーンルームの維持管理をしたり、病理検査の一環で微生物の培養業務にも携わったことがある。それは”きのこ農家”としてのアドバンテージとなったが、微々たるものだと思っている。
中学か高校で習う生物学を復習しておけばいい。高度な知識は必要ないのだ。植物と微生物の違いを知るだけでも、栽培方法は変わってくると思う。
・従属栄養生物であること
・光合成を行わないこと
・組織を形成すること
この3つを理解しているだけでも相当に変わると思う。知識の無い人は無駄に水を掛けたがる。そのリスクを分かっていないのだろう。『菌は”じめじめしたところ”が好き』。そんなイメージで水を掛け続ける。状況を悪化させてるにも関わらずだ。
けれども「他に打ち手は無い」とも言うそう。そんなことはないのに。湿気が多くなれば、きのこの品質も悪くなる。要冷蔵にもなるだろう。
きのこ栽培においては『積算温度』に注目しておけば上手くいくと思う。けれども絶対ではない。そもそも原木の内部温度を把握することは不可能だ。原木の表面温度、もしくは室温で対応するしかない。だが、仮に内部温度を把握できてもズレは生じるだろう。
本当に注目すべきことは菌の活動量だ。温度で活動量は変化するので、やはり『積算温度』に注目しておけばいいのである。けれども菌が活動した時間を考慮する幅を広げておいた方がいい。積算温度だけでは測れないものもあるからだ。きれいな比例直線にはなっていない。栽培の難しい菌種なら尚更だ。故に僕は『菌の積算活動時間量』を最大に考慮して栽培を行っている。
思えば、そこにも前職のアドバンテージがあった。生物の繁殖業務も携わったこともある。大切なのは期待値とその逸脱度。整った環境だったから、ほぼほぼ期待値どおりに繁殖を進めることができた。『半年後の〇月〇日に〇匹生まれる』。そんなところまで設計できたのである。
それを”きのこ栽培”に持ち込んでいる節はある。自然に近い環境で栽培しているから逸脱度は高い。そこは下駄を履かせて対応している。あるていどの規模が必要となるがクリアした。それらを踏まえて栽培スケジュールを構築している。
故に、毎年起こる春の不作も原因は分かっている。必要な対策も把握済み。もうひとつのビニールハウスが必要なのだ。だがしかし、設備投資はできていない。資金的な問題がそこにある。つまり想定内の不作となっているわけだ。
そう、僕の栽培方法は勘に頼ってはいない。だからといってデータを取りながら判断をしているわけでもない。構築した栽培スケジュールを淡々と進めているだけだ。圧倒的に楽。それもこの栽培方法の長所。長く続けるためには不可欠だ。
きっと、大量生産を目指していたなら、この方法はずさんだったであろう。切り詰められる隙はあるからだ。けれども僕の栽培スタンスは品質重視。隙を埋めてギリギリを狙えば破綻するものもある。つまり、勘に頼ることも、日々のデータに頼ることも、同程度に愚策なのである。