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#138 久しぶりの裏作戦

十勝の田舎町で暮らしている。僕は地域おこし協力隊だ。任務は多岐にわたる。自身の就農研修を進めながら、所属する生産組合を活性化させなければならない。ハードルは高いが、実際は毎日農家さんと楽しく作業をしている。

たまにではあるが、地域おこし協力隊向けのイベントもある。そこへ出席するのも仕事のうち。正直、めんどくさいのである。その日も帯広でイベントがあった。十勝の地域おこし協力隊が一堂に集まる。ゲストの講演を聞いた後はワークショップだ。

僕は基本的には無口だ。大人しいのがデフォルト。つまりは人見知り。故にワークショップは苦手だ。コミュニケーションをとるにしても、自然体では変なことを口にしてしまう。つまりは緊張が必要なのである。

そんなワークショップははじまった。目的は情報交換。今取り組んでいること、直面している課題、等々を話しながら情報を共有していく段取りだ。まずは自己紹介。所属市町村、出身地、年齢、それらに加えて『地域に期待されていること』を発表していく。

僕の番が来た。「地域に期待されていることはマンパワーです」。僕は素直に答えた。だが笑いが起きた。ボケだと思われたのである。それもそのはず、他の人はデスクワーク系のスキルや行動力を期待されていた。それが当たり前の世界なのかもしれない。そこに僕のマンパワーだ。それは笑いも起きるだろう。

他の人の経歴を聞いて、僕はすこし劣等感を覚えた。すごいのである。僕は僕の仕事を恥じた。毎日農家さんと楽しく作業をしている場合ではないのかもしれない。

すこし気持ちが下向きになった。そして追い打ちがやって来た。ワークショップの核イベントがはじまったのである。「知りたいことや聞いてみたいことを皆に質問してみましょう」。MCはそう言った。それだけならよかった。「くじ引きでグループ内の役割を決めましょう」。進行役と書記を選ぶことになった。

僕は気持ちが落ちている。おそらく運も落ちているだろう。嫌な気がした。そんなときの直感は外れないのである。僕は書記になってしまった。確率でいうと1/6。なかなかの運の悪さであった。

一大事である。僕はふたつのことが同時に出来ない。聞きながら書くことができないのだ。どうしたものか。こんなときでも悪知恵だけは働く。僕が率先して質問のお題を提示してしまえばいいのである。答えやすい質問をだ。

「任期後のことは考えていますか?」。この質問はYESかNOで答えられる。書記をするのも楽だろう。おそらく考えている人も少ない。もちろん、質問は発言前に書き留めておいた。

「んー、まだ考えてないですねぇ」。作戦通りである。僕を除く5人が似たような答えであった。ただ、僕の作戦はこれだけではない。早く答えてしまえば次の質問へ行ってしまう。それを防ぐのは僕自身だ。なるべく答弁の時間を引っ張るのである。

僕は任期後に農家になることを告げた。そのために今の取組みがあることも付け加えた。「地域に期待されていることはマンパワーです」。ボケと思われた僕の自己紹介の真意も、ここで回収したのである。

僕の答弁はさらに続いた。任期後に就農してからの取組も答えておいた。農家がやれることは、とりあえず全てやるつもりである。グループは僕の称賛で盛り上がった。これは書記として書き留める必要はないであろう。そのまま時間は経ち、無事にワークショップも終わったのである。

久しぶりに実行した裏作戦。とても楽しかった。サラリーマン時代を思い出したのである。あの頃は、こんな裏作戦を頻繁に行っていた。もしかしたら僕の強みはこれなのかもしれない。農園の運営にも使えるだろう。そんな気付きもあったから、今回のワークショップは参加してよかったと思う。

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