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タモツの日記
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#62 任務が降りてきた

医療系の研究施設で働いている。僕は派遣社員だ。とはいえ派遣元の正社員だから給料も良くはない。月の手当は多岐にわたるが、残業が無いせいかぱっとしない。資格手当の3,000円がいいところだろう。

だが楽しく暮らしている。僕は酒もタバコもギャンブルもしない。料理は好きなのでエンゲル係数も低い。しかし写真が好きなのでフィルム代はかさむ。加えてドライブも好きだからガソリン代も馬鹿にならない。けれどもそれらを我慢するほどの貧乏ではない。楽しく暮らしているというのは、そういうことだ。

そこには以前の経験が生きていると思っている。僕は田舎暮らしをしていた。社内では『陸の孤島』とも呼ばれているところだ。そこではお金があっても日々の暮らしは向上しない。何かに挑戦することが必要だった。気分が乗らなくてもやってみる。実際やってみたら楽しく思えるものは多かった。もちろん楽しくないものも多かった。けれどもそれらはやらないと分からない。想像だけでは分からないというわけだ。

今の僕が楽しいと思えることは、そのときに出会ったものが多い。あのとき挑戦していなかったら暇を持て余す人生を送っていただろう。想像するとゾッとする。故に挑戦できるものは可能な限りやるようにしている。

テニスをすることになった。誘ってくれたのは居室の席のとなりの主任だ。とにかくテニスが好きなのだろう。昼休みもテニスで、アフターファイブもだ。そんなテニ主任は現場のトップである。人の丸い丸部長からの信頼も厚い。同僚からも同様だ。席が横ということもあり、僕とも喋る。いろいろと聞かれるのだ。「ウイロイドってなに?」。上級の資格を持っているはずなのに、研修会で出会った知らない単語は僕に聞いてくるのである。

正直にいうと接待的なニュアンスもあったが、僕はテニスをやることにした。もしかしたら好きになるかもしれないからだ。競技人口も多い。昔、僕にいろいろと教えてくれた師匠もテニスをやっていた。いい機会だと思えたのだ。

結局5人が参加することになった。仕事終わりに1時間ほど。場所は会社内のテニスコート。ナイターの設備付きだ。参加者は全員未経験。とりあえずラケットは借りた。テニ主任のスクールがはじまったのである。

テニスは思っていたより難しかった。空振りすることは無いが、打ち返したボールはコートに入らない。ホームランを連発。もっと緩く打つか、もしくはドライブ回転を掛ける必要があるらしい。僕は強く打ちたい派なので後者を選択。それでホームランを連発してしまったというわけだ。

テニ主任との会話は増えた。といっても仕事の話だ。やはり現場のトップとしても、他施設でのやり方は気になるそう。僕は知っていることのすべてを話した。仕事上の役割的にだが、それ以上にテニスを教えてもらったお礼として『ここだけの話』も追加することが多かった。

テニ主任は仕事ができる上司だ。マネージメントの面で勉強させてもらっている。そのうち必要になるかもしれないからだ。すくなからずテニススクールも仕事上の下心はあるのだろう。上級の資格を持っていることも効果的に働いていると思う。

上級資格は現場の居室内ではテニ主任だけが取得していた。僕の会社でも取得している人はいるが10人にも満たない。大学院卒のエリートキャリア組の人が持っていたりするが、一般入社組で取得しているのは数人だ。取ったら取ったで表彰されたり講演をお願いされたりするので、めんどくさい資格でもある。

僕は上級の資格のことをテニ主任からいろいろと教えてもらった。取れそうだからである。勉強は試験の1年前からはじめることがセオリーだが、おそらく1ヶ月もあれば十分だろう。僕は変わっているからだ。実技試験もあるが、試験を受けるならテニ主任が教えてくれるらしい。場所も道具も提供してくれると丸部長も言ってくれた。

僕は上級試験を受けることにした。試験は総論と各論のそれぞれを筆記と実技で評価される。そのため試験は分割されていた。はじめに総論の筆記と実技が免除される研修会に参加するのが一般的だ。免除されるとはいえ、この研修会が試験の役割を持っている。最終日に修了試験があるからだ。故にこの研修会にエントリーすることからはじめたのである。

僕は短期転勤族だ。今の事業所は5ヶ所目。任務はなく、ただただ時間が流れていくことに恐怖さえ覚えていた。だがここにきて任務を設定することができた。上級資格の取得である。

これを取得すれば僕の次の転勤先も増えるだろう。もちろん会社にとっても都合がいいはずだ。挑戦する僕の姿は、今の職場の人にもいい刺激となるだろう。それはテニ主任や丸部長も願っている。

いい仕事が出来そうだ。そう言いたいところだが実は裏がある。僕はいたずらが好きだ。そう、この件も僕のいたずらなのである。おそらく僕が上級資格を取ったらおもしろいことになるだろう。にやにやが止まらないのである。

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