





医療系の研究施設で働いている。独り現場だ。この事業所を守ることが僕の任務。働くだけではなく、心身ともに健康でいなければならない。そのためプライベートの充実も必要なのだ。故に様々なものに挑戦してきた。自分には合わなかったものもある。釣りや本気のスキーがそれだった。
闇雲に挑戦したわけではない。師匠と呼べる人がいたのだ。マニュアル車をこよなく愛すM兄さん、その人である。全てを教わったと言っても過言ではない。釣りやスキーはM兄さんから教わった。他にもある。自転車だ。聞けば自転車で山を上ったり下ったりするのは楽しいらしい。
さっそく挑戦してみた。結論から言うと死ぬかと思った。上りはただただ苦しいだけ。ほとんど歩いて上った。下りは下りで恐怖との戦いだった。未体験のスピード域に達すると、聞いたことのない音が自転車から発せられていた。エアブレーキの効果も抜群だ。恐るべし自転車のヒルクライム&ダウンヒル。もう2度としないと決めたのである。
何でも知ってるM兄さん。頭がいいのだ。さすが研究者。教え方も上手い。あるときカメラの使い方も聞いてみた。やはりM兄さんは写真にも精通していた。
僕は草野球チームのキャプテンだ。雑用係という名の幹事でもある。選手の活躍を記録するのも仕事のうち。カメラマンになるときもあるのだ。そこで覚えた写真。おもしろいのだが味気ない。失敗がないからだ。僕が上手いわけではない。カメラが優秀過ぎるのだ。一体カメラは何をしているのか。僕はなにも知らない。好奇心は疼きだす。故にM兄さんに聞いてみたと言うわけだ。
M兄さんのカメラコレクションは凄かった。基本的には古いカメラなのだが、中にはアホみたいな値段のものもあった。いろいろと説明してもらったが違いはよくわからない。僕はそのうちの1つを格安で譲り受けた。M兄さんお薦めの入門機。露出計は付いているものの、マニュアル操作が必要だ。もちろんフィルム機。写真の練習には最適なカメラというわけだ。
使い方も教わった。フィルムの装填方法から露出の合わせ方まで。1時間ほどの講義であったが、大体の把握はできたつもりだ。さっそく翌日から撮り始めたのである。
大いに失敗した。画になっていない写真を量産。フィルムをそのまま捨てたようなものだ。それでも負けない。試行錯誤は続いた。M兄さんからの助言もあった。おかげでなんとか画にすることは可能となった。けれども満足はしない。それが不思議だった。
写真はおもしろい。本物そっくりの画を見て、僕ら人は一喜一憂している。それが尊くも思え、滑稽にも思える。僕は自分が満足できる写真を撮りたくなった。
何が不満でどうすれば満足できるのか、僕はなにも知らない。考えるにしても材料が少なすぎる。目の前の壁は高かった。
けれどもそれが嬉しかった。今まで見てきた他の壁とは印象が全く違う。写真はどこまでも行けそうだ。こうして僕の写真は始まったのである。