





お掃除系の会社で働いている。勤務態度は真面目だ。私語を慎み、単純作業を延々とこなしていく。休憩時間でも喋らない。それが僕という人間だ。
最近は適応能力も手に入れた。多少のトラブルなら何事もなかったようにリカバリーしていく。大きめのトラブルでも解決策に困ることは少なくなった。
おそらくプライベートで草野球の幹事をしているからだろう。草野球チームの運営はトラブルだらけだ。予定通りに事が運ぶことの方が少ない。
試合に遅刻してくる選手。忘れ物だって多い。試合にグローブを忘れてどうする。相手チームと喧嘩を始めた者もいた。後日謝りに行くのは僕である。突然の雨なんてしょっちゅう。雨天決行派と中止派の対立もあったりする。
その度に解決策を考えて動かなければならない。それと比べたら仕事中のトラブルなんて屁みたいなものだ。最悪、上司に報告して責任を負ってもらえばいいのだから。
おそらく成長したのだと思う。だがそれはプライベートの草野球のおかげ"だけ"ではない。仕事場での経験も大きい。
3つ年上のつんつんしている先輩は、この仕事場でのナンバー2だ。参謀的なポジションにいる。僕の教育係になることも多い。トラブルを解決するくだりも近くで見てきた。そして僕がお手本としている人でもある。
問題の解決方法はいつも決まっている。状況を整理して根本的な原因を特定する。そこを潰すのだ。時間が無いときは、とりあえずの策を講じる。根本的な原因を潰すのはそのあとだ。つまり臨機応変に対応することも大切なのである。
この方法をプライベートの草野球に持ち込んでいる節はある。おかげで上手くいったことも多い。つんつん先輩には頭が上がらない。きっと僕を成長させてくれたのはこの人だ。
だが、つんつん先輩から見れば、僕は頼りなく気をかけて守るべき社員なのであろう。そこには堅くて優しい上下関係があるのだ。それでも僕は一向に構わないのだが、つんつん先輩が困っている時は助けてあげたいのが本音。けれども、先輩には僕に助けを求めるという選択肢は見えていないのだと思う。
その日つんつん先輩は困っていた。機械が言うことを聞いてくれないらしい。だがしかし僕に助けを求める気配はない。おそらく「交代しましょうか」と言ったところで「大丈夫」との答えが返ってくるだろう。およそ修理に出すかどうかで迷っていると推測できた。
思い切って悪態をついてみた。横から口だけ出したのである。子供の頃にこれをやって母親によく怒られたものだ。だから悪いことだと知っている。それをあえてやったのだ。
予想通りつんつん先輩はすこし怒りながら僕にこう言った。「だったらやってみなよ」。僕は笑顔で「わかりました」と返答した。はじめて仕事場でプライベートな僕が出てしまった。そこに笑顔はいらなかったのである。
僕のキャラ変に気付いたつんつん先輩。なにかを悟ったように機械を渡してくれた。少し苦戦したが僕は機械を直した。先輩は少し恥ずかしそうに僕にお礼を告げたのである。
世代交代なんておこがましいことは言わないが、それをきっかけにつんつん先輩との関係性が少し変わった。僕にめんどくさい仕事をまわしてくるようになったのである。
嬉しいような、悲しいような、めんどくさいような、めんどくさいような。余計なことをしてしまった。でもまあ恩もあるし。これを機に給料もアップするかも。そんな妄想もしたが、現実は厳しかった。