- SHIITAKE BLOG -
しいたけ ブログ
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しいたけ菌の恋愛事情

椎茸栽培で大切なことは、環境を整えてあげること。椎茸菌は自立している部分も多いので、過度なお世話は彼ら彼女らのためになりません。手取り足取り、必用なものを不足なく与えるのではなく、その生活環境を整えてあげることくらいが調度良いのです。

それでは、椎茸菌にとっての良い環境とはどのようなものなのか。そこには疑問も残ります。おそらく、それは僕ら人と同じもの。明確な答えはないのかもしれません。すべてのストレス源を排除した環境は、一見良いものと思えますが、実際は何もないことが新たなストレス源となって身心を崩すこともあると思います。そう考えれば、日々の暮らしの中では、生命の危機を感じない程度の軽いストレスも必要なのではないでしょうか。危機を乗り越えられる器量があるのならば、その器量を発揮する場面も必要なのかもしれません。僕はそう考えています。

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栽培に適した温度帯は約15~25℃

十勝は、夏は30℃を超え、冬は-20℃以下にもなります。季節の寒暖差が50℃にも達しますが、そこでも椎茸菌は生き延びています。昼と夜の寒暖差が10℃を超える日も珍しくありません。湿度が30%台になる日もあります。それでも椎茸菌が生きていけるのは、その器量があるからです。その分、時間は掛かってしまいますが、その器量を発揮する場面を残したままにすることが、椎茸菌にとっての良い環境だと思うのです。

ただ、それが良い環境だとすれば、当農園の創る環境は100点ではありません。次世代へ子孫を残すためのパートナー探しは、椎茸菌にとって大きなイベントであり、障壁の高いストレス源でもあると思うのですが、そこは排除しています。

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栽培で使うのは核を2つもった二次菌糸

椎茸菌の子孫の残し方は、動物や植物と大きく異なります。僕ら人の場合、異性間でお互いの半人前の遺伝子融合させることで、新たに親と異なる一人前の遺伝子を持った細胞を作り、そこから個体へと発生していきます。一方、椎茸菌は半人前の遺伝子を持つ細胞が普通に増殖しながら暮らしています。パートナーを見つけても、細胞は融合するも、すぐに遺伝子の融合は行いません。細胞の中に異なる半人前の遺伝子の核が2個存在したまま増殖して暮らしていきます。榾木に危機が訪れると、核が2個存在する椎茸菌達はキノコを作り、脱出と拡散のために胞子を作りますが、そのときにはじめて遺伝子を融合させます。でも、融合して一人前となった遺伝子も、すぐにまた半人前の遺伝子へと分裂させられ、風に乗って新天地へ向かうことになります。

栽培用の椎茸菌は、すでに核が2個存在する椎茸菌です。パートナーを探す必要はありません。これが当農園の創る環境が100点ではない理由です。でも、こうでなければ品種にばらつきが出てしまいます。種菌メーカーさんの方で、毎回同じ半人前の遺伝子を持つ菌を確実に掛け合わせてくれてるからこそ、僕ら椎茸農家は毎回同じ性質のキノコを収穫することが出来ています。

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二次菌糸を培養した植菌用の成型駒

ただ、そう考えると自然界で自生している椎茸の方が、苦労をしている分だけ美味しい可能性があります。ちなみに椎茸の性別は雄雌の2種だけではなく4種類もあるらしいので、パートナー探しは人よりも若干楽なのかもしれません。

ご家庭で原木栽培に挑戦されてる皆さんにとって、このお話が何かしらの参考となったら幸いです。

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